『呉服元町商店街』のこと

・『呉服元町商店街』のこと

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このたび、数人の編集者、イラストレーター、デザイナーで協力して『呉服元町商店街』という本を作り、世に出すこととなりました。高齢化や過疎化、ショッピングモールの出現など、様々な逆境のなかで失われつつある商店街の風景を記録する活動の集大成です。

活動の発起人である東成実さんは、二〇一七年に、なじみの場所だった『寿通り商店街』が取り壊される事態に居合わせました。背景には高齢化があり、商店街の人々が自ら望んで行われたことでした。仕方がないとはいえ、見慣れた場所があっけなく重機に均されてしまう──その光景にショックを受けた彼女は、フィルムカメラの写真や、インタビューなどでまちを記録する活動をはじめました。

 

本が取り上げているのは、佐賀県佐賀市にある呉服元町商店街という場所です。もともと佐賀市には、戦後の荒地ではじまったバラック商店街が四つあったのですが、時代の移り変わりとともに解体が進みました。二年前には前述の『寿通り商店街』もなくなってしまい、今ではたった一つが残るのみとなっています。この本が光を当てているのは、最後に残った商店街の周辺です。

 

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商店街の方々に話を聞いてみると、古株のお店には戦争の影があります。たとえば、店主の親世代が戦後に引き揚げてきて、満州で食べた餃子を参考にはじめたお店。餃子屋の店主の「子供のころ食べた餃子はもっとおいしかった気がするけど、なかなかその味に近づけない」というお話は、編集していていちばん胸に響く箇所でした。

なぜそれが響くのか。満州の味と、先代の味と、今日も開業しているお店の味が、数十年という長い時間のなかでエコーを起こしているからです。また、この本で取り上げなければ、その歴史は人目に触れることはなく失われてしまったかもしれないからです。そして、そのような喪失は、ほとんど押し留めがたい力でこれからも押し寄せてくるはずです。

戦後の荒地からはじまったお店がある一方で、新しいお店もあります。二年前に出店したフラワーアレンジメントの教室や、外国語教室を企画するフランス風の喫茶店など。そこにはふと立ち寄る人の姿も、若者たちの姿もあります。商店街は歴史的な経緯から見ても興味深い場所ですが、瓶詰めにされ、博物的な関心のうちに生かされている場所ではありません。自立した空間として新陳代謝があり、今日も誰かの休息や団欒の場として息づいているのです。

 

あなたが生まれたまち、家族に連れられて休暇を過ごしたまち、進学や就職で住んだまち、あるいは旅行で訪れたまち。多くの人はどこかしらで、失われつつある商店街の光景を意識する機会があったことと思います。この本の内容が、どこか遠くの話としてではなく、今までに見た風景や記憶に想いを馳せるきっかけとなり、いまあなたが生きている場所と、遠い風景や記憶を繋いでくれるものであることを願っています。

 

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現在、福岡天神の書店『本のあるところ ajiro』にて、11/20~12/1の期間で写真展を開催しております。お近くの方はぜひ一度足を運んでみてください。おそらくこれが最後の写真展になると思います。

引き続き、 『呉服元町商店街』をよろしくお願いします。

 

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本の製作や、東京→九州へ移り住んだ体験、身の回りで目にしたさまざまな文化活動を通して感じたことを記事にしました。イベントの身内感について、マイナーな分野で、あるいは地方で文化をつくることについて書いています。なにとぞ!

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